歯並びを治すの際に歯を抜くこと(抜歯)が必要なのかということがしばしば問題にあがります。
最近では矯正治療を経験された方が多くなってきて、そのお友達が相談に来られた際に「私の場合は抜歯が必要なのはしょうがないですよね」と患者さまの方からおっしゃられることが多くなりました。
しかし誰しも歯を抜かれることが好きなはずがありません。私自身だってそうですし、自分の子供を治療するにもできれば抜歯は避けたいと思います。
ですが抜歯が必要な場合もどうしても出てきます。ではなぜ抜歯が必要になるのでしょうか。無意味に歯を抜くことはないので必ず理由があるはずです。
まず歯並びにでこぼこ(叢生:そうせい)が生じている場合はどうでしょうか。
図1のAさんも、図2のBさんも上下にかなりでこぼこ(叢生)があります。Bさんは典型的な八重歯の状態です。
どちらも成人の方なので成長により顎の骨が大きくなることはありません。(成人の場合、矯正治療で歯並びの幅を装置で多少拡大することは可能ですが、子供ほど大きく拡大できません)つまり顎の大きさは変わらないということです。
例えば、3人掛けのベンチがあるとします。ベンチの大きさは当然変わりません。そこに4人が腰かけます。もしくは3人だとしても太ったお相撲さん(=大きい歯)が3人腰かけます。どうなるでしょうか?あるいは3人が普通の体型であってもベンチが小さければ(=顎が小さければ)どうでしょうか?誰かが斜めに座るか、膝の上に乗るか、重なって座るか…いずれにしろでこぼこの状態で座るしかありません。ベンチの大きさ(歯槽基底部の大きさ=顎の大きさ)に対して座る人の太さあるいは人数(歯の大きさ)がぴったり当てはまらないとでこぼこ(叢生)が生じたり、すき間(空隙)が生じるわけです。
専門的にはこの不調和の状態をarch length discrepancy(アーチ・レングス・ディスクレパンシー)といいます。この不調和の量、歯がぴったり並ぶために足りない量が5mm以上の場合、抜歯の対象になると一般的に言われています。
しかしながらこのでこぼこでぎゅうぎゅうの不調和の状態…あまり気分よくありませんよね。落ち着かないですし、座っている皆が疲れます。歯も同じです。汚れが溜まりやすくなりますし、虫歯や歯肉炎、歯周病の原因になります。また噛み合う歯との当たり方がよくなければその歯にダメージが生じてくることもあります。
ではどのように解消したらよいでしょうか。もうお気づきの方もいらっしゃると思います。
そうです。ベンチに座っている誰かに申し訳ないけどそこから抜けてもらう。つまり歯を抜いて不調和の状態を改善するわけです。できれば抜きたくないですが、抜くことで歯並び・噛み合わせを安定させること、長い目でみると他の歯の健康を守ることにもなります。
私の抜歯に対する治療の考え方、順序としては次のようになります。
このようにステップを踏んで最終手段として抜歯を検討しています。
上の問いにはでこぼこ(叢生)の量により抜歯が必要になる場合があることをお話しました。
今回は前歯の前後的な傾きとの関わりについてです。すなわち前歯が前に出ているか後ろに引っ込んでいるかどうかということです。主に前歯が前に出ている場合が抜歯の必要性と関連します。
写真は上下の前歯が前へ出た上下顎前突という状態です。前歯が出ていることが気になり治療を希望されました。レントゲンの分析結果から、前歯の傾きは標準よりかなり前方へ傾いています。
ではこの前歯が前方へ突出した状態を改善するにはどうしたらよいでしょうか。改善するためには前歯を後ろへ移動する必要があります。後ろへ移動するためには前歯よりも後ろにスペースが必要になります。前歯を後ろへ移動する量が多ければ、その分後ろにスペースが必要になるため抜歯が必要になる可能性が高くなります。前歯を後ろへ移動する量が少なければ、歯の幅を調整する(IPR)、あるいは奥歯を後方へ移動するなどの手段で抜歯をせずに治療できることも考えられます。
抜歯をするかしないかは前回のでこぼこ(叢生)の量、前歯の傾きだけでなく、他にも
その他さまざまな要因を含めて検討します。
そのためにも矯正前には精密検査が必要です。これを元に現在の状態をよく把握して、あらゆる可能性を考えたうえで治療計画を立てます。
抜歯するかしないかを矯正治療の目的にしてはいけません。あくまで抜歯はひとつの手段です。抜歯をしないで治療したとしても、噛み合わせが安定しなかったり、見た目がよくなかったり、口元や横顔の状態がよくなければ治療の意味がありません。
矯正治療の目的は、
これらができる限り長期に安定する状態に向かって改善することです。
まず最初は抜歯をしないで治療可能かを検討します。抜歯はあくまで最終手段です。何よりも最終的には素敵な笑顔になっていただくことを願って、検査も毎回の治療も行いたいと思っております。
歯並びのでこぼこの改善や、前歯の突出:出っ歯の改善を行うためには抜歯が必要になる場合があります。
でこぼこと前歯の突出の症状が組み合わさる場合もありますし、さらにその他の要因も重なる場合が多いため、それぞれの要因を考慮して抜歯するかしないかは検討します。
今回は前歯のでこぼこと前歯の突出がある場合「抜歯をした場合」と「抜歯をしない場合」ではどのように歯並びに違いが生じるかをご紹介したいと思います。
下写真では、上の前歯が前方に突出しています。レントゲンの分析結果では、上前歯平均よりやや大きく前方へ傾き、下の前歯の傾きは平均的でした。
上の真ん中の前歯(中切歯)2本は前方に飛び出ており、その脇の歯(側切歯)の傾きは前方へは飛び出ておらず、むしろ傾きはよい感じです。この脇の歯と同じくらいまで真ん中の前歯を後方へ倒してきれいに歯並びに入れたいのですが、そのためにはスペースが(5mm程度)足りません。下の前歯の傾きは平均的でよいですが、でこぼこが強く理想的な歯並びにするためにはやはりスペースがかなり(5mm以上)足りません。
仮に「抜歯をしないで並べた場合」と「抜歯をして並べた場合」ではどのような違いが出るでしょうか?
模型でシミュレーションを行ってみます。専門的にはこのように診断や治療計画を立てるためにシミュレーションする模型のことを「予測模型」あるいは「セットアップモデル」などといいます。
「抜歯をしない場合」でこぼこの重なり合った部分を解消しながら並べることになるため歯並びの外周はどうしても大きくなってしまいます。つまり前歯はさらに前方へ突出してしまいます。
前歯が出ていることを悩みに来院されたとしても、抜歯をしないで並べると前歯はさらに前に出てしまい、口元は突出してしまいます。
「抜歯をした場合」前歯より後ろにスペースができるため、前歯を後方へ移動して出っ歯を治すことはもちろん、歯並びのでこぼこを改善することが可能です。抜歯をした場合、上下とも前歯の傾きはとても良好です。スマイルも口元もきれいになります。
前歯の移動量がどのくらいか、歯を並べるためにどのくらいのスペースが必要かなどさまざまな情報がこの模型から得られます。
しかし決して抜歯をお勧めしているわけではありません。
抜歯をすることで、でこぼこを解消して他の歯や歯ぐきの健康を守ることができて、噛み合わせ、歯並び、口元、スマイルなどを改善できるならば、ひとつの有効な手段だと考えています。もちろん抜歯をしない方がよいこともあります。
まずは精密検査を行い、「現在の状態を把握してどのような治療を行うか」を充分ご納得していただいてから治療を開始するようにしております。「検査をしたからといって治療もしなければならない」と思われている方が多いですが、決してそのようなことはありません。
治療計画にご理解がいただければあとは素敵な笑顔になることを目指して一緒に頑張るのみです。いま治療されている方も一緒に頑張りましょうね。
抜歯をしなくても済む可能性が高いのはどのような場合でしょうか。
などが挙げられます。
※1 上下顎の前後的位置のズレが大きい場合でも、子供は成長を利用して前後的なズレを軽減できることがあります。
※2 大人に比べて子供の場合は成長途中のため拡大できる量が大きいです。
まず虫歯治療を行う必要がありますので、一般歯科医院をご紹介しています。また虫歯がみつかった場合、矯正装置をつける前に虫歯を治療する必要があります。
当院は矯正専門の歯科医院であるため、虫歯治療は行っておりません。患者さまのかかりつけの歯科医院、あるいは当院が信頼できる歯科医院をご紹介して治療していただきます。これは抜歯に関しても同様です。
当院で虫歯治療を行わない理由は、日々虫歯治療を行っている歯科医にお願いする方が、患者さまのメリットが大きいと考えているからです。治療内容に合わせてその道のプロにお願いすることが、患者さまにとって最善の治療法だと思います。内科の専門医が心臓外科手術を行わないことと同じだとイメージしていただければわかりやすいと思います。
歯を動かすためのブラケットいう装置を、歯の表側につけるか裏側につけるかの違いです。
治療中の見た目をどの程度求めるかによって、表か裏かをお選びいただけます。どちらを使っても、治療期間や仕上がりに大きな違いはありません。とはいえ、費用面は舌側(裏側)矯正の方が高いことが多いです。
以前は表側(唇側)矯正に使うブラケット素材が金属だったので、歯が見えた時にギラッと装置が目立ちました。そのため、矯正歯科治療中の審美性を求める方は裏側(舌側)に装置をつけるしかありませんでした。
しかし、ブラケットの開発は日々進化しており、現在は表側(唇側)矯正でも歯の色にそっくりで、変色しないセラミックブラケットが主流になりました。しかし、やはり表側に装置がつくことにどうしても抵抗がある場合は舌側(裏側)矯正が有効です。
裏側からの矯正は、以前は喋りにくい、舌が痛い、食べ物が詰まる、歯磨きしにくいなどの問題がありましたが、現在は装置の進化に伴い、ほとんど気にならないレベルになりました。また、虫歯になるリスクが1/4、虫歯の重症度が1/10というヨーロッパでの報告があります。
治療期間や仕上がりは、表側と裏側の差ではなく治療前の噛み合わせの状態に左右されると考えられますので、見た目と費用のご希望に合わせて表か裏かを選択できます。
矯正に年齢制限はありません。
歯周病のように歯がグラグラになっていない限り、何歳でも治療は可能です。ただし、悪い噛み合わせを何十年も放置していた結果、治療が難しくなる場合がありますので、できるだけ早く治療を開始することをお勧めいたします。
はい。当院では部分矯正も行っています。(現在は部分矯正を行っておりません)
とはいえ、部分矯正といっても、問題がある歯のみに装置をつけて歯を動かすことはできません。全体の噛み合わせを考えて、装置をつける箇所を判断する必要があるからです。どの程度装置をつける必要があるのか、治療期間にも個人差があることをご了承ください。
子供:認められます。
成人:当院では、診断時にお渡しする治療計画書のコピーを控除申告時に添付していただいております。
詳しくは、国税庁のHPをご覧ください。
国税庁HP:https://www.nta.go.jp/
●医療費控除を受けるための条件は?
医療費控除は、1月1日~12月31日の1年間に支払った医療費が10万円を越えた場合の超過分に対して適用されます。ただし、年間所得が200万円未満の場合、所得×5%を基準として超過分に対して適用されます。
治療上必要があれば抜くことはあります。できる限り歯を抜かないで治療することは、矯正医も患者さまも気持ちは同じです。顎を横に拡げたり、歯を後ろに動かしたり、歯の幅を狭くすることで隙間を作れる場合は、歯は抜く必要ありません。
しかし、隙間を作れなかった場合や、口元が前に出ているのを改善したい方は、抜歯が必要な場合があります。
治療の難易度、歯の動き方の個人差によりますが、通常の治療方法で平均1半年~2年くらいが一般的な治療期間です。通院ペースは1ヶ月に1回が平均的です。
当院へ通院していただくことが不可能な地域への引っ越しでしたら、引っ越し先近隣の矯正歯科医院への継続治療の依頼をしております。
痛みがまったくないとはいえませんが、想像されているより痛くありません。ブラケットにワイヤーを装着すると、持続的な力が歯にかかります。
歯が動く時は、骨の中の歯根周囲で炎症反応が生じ、それが痛みの原因になります。そのとき、虫歯の痛みと違った歯が浮くような感じがする場合や、物を噛むときに鈍い痛みを覚えることがあります。
この痛みは数日続くことがありますが、1週間くらいで消失します。当院では治療初期に極めて弱い力で歯を動かしますので、炎症の度合いが少なく、あまり痛みを感じることはないでしょう。痛みの感じ方は個人差がありますが、実際に当院に通院中の方の中には、全く痛くないですと言われる患者さまがたくさんいらっしゃいます。
また、痛みの原因のひとつである「バンド(奥歯に固定する金属の装置)」は、当院は一切使用しません。これも痛みを減らすことができた大きな要因です。
装置が壊れた、外れた場合は、なるべく早くご連絡ください。次回のお約束日でも大丈夫な場合と、至急処理する必要がある場合があります。
矯正装置は入れ歯などと異なり、治療期間内にだけ効果を発揮する器具です。耐久性を求めることが目的の装置ではないので、治療中に壊れてしまうことがあることをご理解ください。
キャラメル、ガム、グミなどが引っ掛かり、ワイヤーが壊れることがありますので控えた方が無難です。
できますが注意が必要な場合があります。まず、トランペットのように唇にマウスピースを押しつけるタイプの楽器は、表側に矯正装置がついていると痛いことがあります。また、スポーツは格闘技が要注意です。
こういった場合は、装置をガードする歯科用マウスピースを使って対応できますので、治療前にご相談ください。
すべての患者さまは、矯正装置を外した後に保定を行う必要があります。装置を外した直後の歯はかなり動揺していますので、きちんと保定を行わないと歯が動き出す場合があります。
通常、この保定には保定装置(リテーナー)という後戻りを防止する装置を用います。この装置をきちんと使用することも矯正歯科治療の大事な一部です。保定期間は、最低でも歯を動かしたのと同じ期間、できれば2年は必要です。その後も、正しい噛み合わせを維持するために、年に1回の定期検診を受けることが大切です。
大丈夫です。つわりが激しい時期など長時間の診療や通院が難しいこともありますが、治療自体が問題になることはありません。
しかし、レントゲン写真を撮ることはできるだけ避けた方が安心です。当院ではデジタルレントゲンを導入しており、従来のレントゲンに比べてX線量が10分の1程度で済みますが、妊娠の可能性がある場合は必ずご申告ください。
歯の色に近い矯正装置や透明な矯正装置なら、あまり目立ちません。また歯の裏側に装置をつける方法もあります。
歯に何もつけない状態と比較すると歯磨きは大変になります。矯正装置をつけることで歯が磨きにくくなるため、虫歯や歯周病といったお口の中の病気になる方がいらっしゃいます。
差し歯は問題ありませんが、ブリッジの歯を動かす必要がある場合、一度ブリッジを外し、1本1本の歯に装置をつけることがあります。
ただし、天然歯(治療をしていない歯)と比べて接着剤がつきにくいため、何度か治療途中で矯正装置が外れてしまう可能性があります。外れたときは再度接着剤でつけ直せば問題ありません。
矯正歯科治療は長期間かかりますから、その間に都合によりしばらく通院できなくなってしまうこともときにはあると思います。
例えば出産や怪我のための入院や、短期間の留学や受験で忙しいなどです。そのような場合でも、しっかり歯磨きをしていれば特別問題ありません。ただし、その間は治療の進行が遅くなります。
もしも矯正装置が壊れてしまったときは、何らかの応急処置が必要になる場合があります。その際はすぐにご連絡ください。